禁じられし扉 第15話

「ユーリ!!どこへ行くの?」
ユーリは急ぎ足で城内を移動していた。そんなユーリをセーナは必死で追いかけていた。
 「ねぇ!!そっちは『プラリスの塔』しかないって!!」
セーナはユーリに追いついてユーリの腕を掴んだ。するとユーリはセーナの手を振りほどいて再び急ぎ足で歩き始めた。
 「プラリスの塔へ行くのよ。」
 「えっ!?あそこは何もないじゃない!!」
セーナが慌ててユーリの横に並ぶと、ユーリはクスリと笑ってセーナに言った。
 「・・・何もないのかしら?」
プラリスの塔とは城内の一番東に位置するシャトゥーム国で一番高い建物であり、国を一望することができる。プラリスとは何代か前の王妃の名前であり、そのころシャトゥーム国では内乱が絶えず、それを嘆いたプラリス王妃が塔の一番上に真っ白なドレスを着て上り内乱が治まるまでずっと祈り続け、そして内乱が治まったときには祈った姿のままで眠るようにして死んでいたというシャトゥーム国の伝説の王妃と言われている。そのため現在でも平和の女神とされ皆に崇められている存在なのである。そしてそれ以降、東の塔は「プラリスの塔」と呼ばれ、内乱は一度も起こってはいないのだ。
 「相変わらず古いわねぇ〜。」
ユーリはプラリスの塔に着くと、塔を見上げて言った。
 「・・・ユーリ?」
セーナがそんなユーリの様子を不思議そうに見ているとユーリはプラリスの塔の階段がある場所とは反対の方へと歩き出した。
 「えっ?階段はこっちじゃないの?」
セーナが慌てて言うとユーリは笑いながら言った。
 「塔へ上がるわけじゃないんだから!!」
 「えっ?」
 「いいから、こっちへ来て!!」
セーナがユーリに呼ばれて階段のちょうど裏に行くと、ユーリは塔の壁に手を当てて何かを探していた。
 「何してるの?」
セーナがそう言ったときユーリは何かを見つけた。
 「あった!!セーナ、周りに誰もいない?」
ユーリにそう言われてセーナは辺りを見回した。
 「・・・居ないと思うけど・・・居たらマズイの?」
 「かなりマズイ!!」
ユーリが険しい顔をして言うと、セーナは軽く息を吐きポケットから小さな電子チップを取り出して、それを塔に貼り付けた。
 「何なの?そのチップ・・・」
ユーリが聞くとセーナはポケットから小さなモニターのついた機械を出してそれを見ながら言った。
 「生命体、機械類には無害の電磁波を発するチップ。この特殊な電磁波は生命体や機械類に当たると独特な変化を起こし、微量の静電気が発生するの。その静電気を感知するのがこのモニターってわけ。電磁波が当たった部分に静電気が発生するから接触物質の形状や距離までかなり正確に計測できるようになってる。」
セーナの説明を聞きながらユーリはセーナの持っているモニターをのぞきこんだ。
 「・・・よくわかんないけど、とにかくこれで周囲に人が居るかどうかわかるってことよね?」
 「・・・うん。・・・誰もいないよ。」
セーナがそう言うとユーリはプラリスの塔の外壁のレンガを一つ外した。
 「ちょ、ちょっとユーリ!!プラリスの塔は・・・」
セーナが慌てて止めようとユーリに駈け寄るとレンガを外したその奥にはパスワードを入力する電子画面と鍵を刺し込む場所があった。
 「何なの、コレ・・・こんなの塔にあった?」
セーナが驚いてユーリに言うと、ユーリはポケットから金色の鍵を取り出し、それを鍵穴に差し込みパスワードを入力してから鍵を回した。
すると塔の裏に入口が現れた。ユーリは鍵を抜いてレンガを戻した。
 「セーナ、入るよ〜♪」
ユーリはそう言うと入口から入って行った。
 「・・・。」
セーナも慌ててユーリの後を追って入口から入った。

禁じられし扉 第14話

「ノスチーヌ候、気を悪くしないでくれ・・・。セーナはこの国をとても愛しているだけなのだ。だからヴァラベル国のことを・・・」
セーナが荒々しく部屋を出て行った後、国王はノスチーヌ候と会談をしていた。その場でセーナの態度を詫びた。
 「いえいえ、お気になさらないでください。セーナ様の言うことはごもっともでございます。このシャトゥーム国は本当に美しいお国でございます。セーナ様がとても誇りに思っていらっしゃると言うことがわかりました。」
ノスチーヌ候は国王にそう言うと、胸ポケットから封筒を出し国王に渡した。
 「国王陛下。これは、我がヴァラベル国王から預かってまいりました親書でございます。」
 「ヴァラベル国王からの親書?」
国王はノスチーヌ候から親書を受け取り、開いた。
 「・・・こ、これは!?」
国王はその親書を読み驚いた顔でノスチーヌ候を見た。するとノスチーヌ候は頭を下げて言った。
 「・・・どうか御内密にお願いいたします。わが国でも最重要機密ですので・・・。」
国王は再び親書に視線を落とし、最後まで読んで顔を上げた。
 「ノスチーヌ候・・・申し訳ないが受け入れることはできない。」
国王は親書をノスチーヌ候に返して続けて言った。
 「ユーリはまだ15歳だ。」
 「はい。承知いたしております。」
ノスチーヌ候が親書を受け取り国王に言った。
 「・・・なぜ、ユーリなのだ?」
 「・・・それは・・・」
ノスチーヌ候は言葉を詰まらせた。
 「ノスチーヌ候!!理由を述べてもらわねばこちらとしても・・・」
 「ごもっともでございます。」
国王の言葉を遮ってノスチーヌ候は言った。
 「ロッソ国王がユーリ様をと・・・」
 「ティナー王妃がいるではないか!!」
国王が声を荒げるとノスチーヌ候は両手を出して国王を宥めた。
 「お、落ち着いてください。説明いたしますので・・・」
そう言うと国王は大きく息を吐いて、椅子に深く腰掛けなおした。
 「実は、これは我がヴァラベル国でも公表することはない内容なのですが・・・ティナー・マグレットはすでに王妃の位を剥奪されております。そして、レイン王太子も王太子の位を剥奪される可能性があるのです。」
 「・・・。」
ノスチーヌ候の予想外の話しに国王はただ聞いていることしかできなかった。
 「理由は私も存じておりません。しかし、ティナー・マグレットは王妃ではなくなっていることだけは確かでございます。」
 「・・・王妃がいない・・・だから・・・ユーリを・・・と?」
国王は必死に声を絞り出した。あまりの内容に動揺を隠すことができなかったのだ。
 「はい。ユーリ様をヴァラベル王妃にと。」
ノスチーヌ候の冷静な声に国王は頭を抱え、そして首を横に振った。
 「まだ15歳の我が娘を今年48歳になるヴァラベル国王の妃になど・・・そんなこと受け入れられるわけがない!!それに・・・ユーリも拒むに違いない!!」
 「そうですか・・・。」
するとノスチーヌ候は胸の内ポケットからある写真を取り出し国王に渡した。
国王はそれを見ると青い顔して椅子から勢いよく立ち上がりノスチーヌ候を見た。
 「ど、どういうことだ!?何故・・・」
するとノスチーヌ候は不敵な笑みを浮かべて言った。
 「こちらの要求を呑んでいただけますね?」
 

禁じられし扉 第13話

ユーリはしばらく何かを考えていたが、急に本棚に並んでいる本を全て勢いよく床へ落とした。すると、奥にレバーが現れユーリはそれを手前に引いた。
本棚は二つに分かれ左右に移動し、その奥からまた本棚が現れた。ユーリはその本棚からファイルを取り出した。
 「ユ、ユーリ?何・・・この仕掛け・・・私、こんな仕掛け知らないんだけど・・・。」
セーナは本棚の仕掛けをマジマジと見ながら言うと、ユーリは興味なさそうにセーナに言った。
 「あ〜・・・重要機密ファイルを収納するためのものよ・・・。機密を守るのは国家元首の義務なんだし、これくらいの仕掛けは当然でしょ?」
 「・・・そうですか・・・。でも、よくこんなものを手に入れられたね・・・。」
セーナが仕掛けを調べながら言うとユーリは笑顔で答えた。
 「あらっ♪国防長官に貸しがあったじゃない!?国防長官推薦という・・・それで、頂いたのよ〜!!」
 「あ〜・・・そう言えば、現国防長官のクォーディル候はユーリがお父様に推薦したんだっけ・・・。」
セーナが呆れた顔で言うとユーリはファイルを見ながら言った。
 「そうよぉん!!あ・・・あった、あった☆」
 「そのファイルは何!?」
 「重要機密ファイル♪これは・・・他国の様々な機密情報が書いてあるのよ☆ちなみにさっき言っていたヴァラベル王室の財政難の情報もここからよ♪」
セーナが不思議そうにファイルを見ながらユーリに聞くと、ユーリは笑顔で言った。そしてファイルをセーナに見せながらヴァラベル王室の機密情報を読みだした。
 「レイン・ロゼルタ王太子が設立した新たなテクノロジー開発機関は税金によって設立され、税金によって運営されているが研究成果は上がっておらず、またレイン・ロゼルタ王太子は所属しているだけで研究室には一度も足を運んだことがない。しかし、1年前からレイン・ロゼルタ王太子は頻繁に出入りするようになった。王太子が今、開発に携わっている研究はどうやら『半永久ヘアーコンタクト』のようである。
  新たなヴァラベル国の目玉とするためと思われたが、どうやら王太子自らの為だと思われる。なぜなら最近、王太子は頭髪が薄くなってきておりそれを隠すために必ず帽子をかぶっている。王太子もお年頃になられて少しは容姿を気にかけられているご様子。」
 「・・・王太子って18歳ですでにハゲなの!?」
セーナが気持ち悪そうな顔をしてユーリに聞くと、ユーリはファイルを読みながら言った。
 「さぁ〜・・・私も直接、王太子に会ったことがないからわからない。でも・・・」
ユーリは立ち上がり別のファイルを本棚から取り出した。
 「ん〜っと・・・全部帽子をかぶっているわねぇ〜。」
ユーリはセーナの前にファイルを差し出した。そこにはレイン王太子と思われる人物の写真が何枚もあった。
 「・・・えっ。コレ・・・?」
セーナはその写真を見ると信じられないという顔でユーリを見た。
 「うん・・・ブッサイクでしょ☆隣にいる女性がティナー王妃ね!!」
ユーリはそう言って王太子の横に写っている女性を指差した。
 「うわ〜・・・・・やっぱりお母様ってすっごい美人なのねぇ〜。」
セーナがティナー王妃を見ながら言うと、ユーリは隣で爆笑しだした。
 「あはは。やっだ〜、セーナったら!!ティナー王妃を見てそんなこと言ったらお母様に失礼じゃない。あはは・・・。」
ユーリのあまりの笑いぶりにセーナは訳がわからいといった顔でユーリを見た。
 「???」
 (ヴァラベル国王妃に対して失礼だったのか?それともお母様と交友があるのか?)
 「あはははは。はぁ〜・・・。もう!!セーナってば信じられない・・・。」
ユーリは一頻り笑うと手で顔を仰ぎながら言った。
 「お母様はこの世で最も美しいと言われている人なのよ!?そんな絶世の美女とヴァラベルの親バカ王妃とを比べるなんて・・・比較対象にするなんてお母様に失礼よ!!」
 「そういう事ね・・・」
 (私より言っていることがヒドイな・・・)
セーナは理解したと頷きながら言った。
 「大体、ヴァラベル国王妃って言ったら・・・全世界の王妃もしくは王太子妃の中でもかなりランクが下なんだから!!」
そう言ってユーリは別のファイルをセーナに見せた。
 「ん?・・・はっ!?何これ!!」
それを見てセーナは驚いた。
 「ちょっと、ユーリ!!何なのよ、コレ!?『全世界国家元首容姿ランク・女性版』って・・・こんなランキング・・・。何の意味があるのよ?」
 「何を言ってるのよ!!国家元首の娘・息子が結婚する際の情報になるのよ。国家元首の家族ともなると、こういう情報も大切になってくるからね〜・・・ほら!!お母様はランキングのトップ、第1位よ!!」
 「うわっ!!本当だ。やっぱりすごいなぁ〜。お父様はどうやってお母様の心を捉えたんだろう・・・あ、ティナー王妃は?」
セーナはティナー王妃がどこにいるのかを探し始めた。するとユーリはファイルを一度閉じた。
 「ちょ、ちょっと・・・」
そしてファイルの最後のページをセーナに見せた。
 「ユーリ?」
 「かなり下だから、最後から探した方が早いよ!!」
セーナが困惑しているのをよそにユーリは最後のページから探し始めた。
 「え〜っと・・・ティナー・マグレットは・・・あっ・・・」
ユーリが固まっていると、セーナが横から顔を出してファイルを見た。
 「あった!?・・・ん?あっ!!ティナー王妃ってコレ?」
セーナもティナー王妃の名前を見つけると順位を見て固まってしまった。
 「ティナー王妃って・・・15000番中14986番なんだね・・・」
しばらくしてセーナが小さな声でつぶやくとユーリは無言で頷いた。
 「まさか・・・こんなにもランクが下とは思ってなかったわ・・・」
(さっき、あんなに貶していたのに・・・よく言うな・・・)
 「・・・セーナ、何か?」
セーナの心を読んだかのようにユーリは笑顔でセーナに言った。
 「え゛っ!!・・・いやいや・・・ティナー王妃のランクがあまりにも下だったから驚いたのよ・・・ははは・・・。」
セーナが慌てて言うとユーリはセーナの顔をしばらく見つめ、視線をはずしファイルを閉じた。
 「そう・・・それならいいんだけど。」
 「・・・う、うん。」
 「お母様に失礼ってことがわかったでしょ?」
ユーリがセーナの方を見て言うと、セーナは先程のティナー王妃が映った写真を見ながら何か考え事をしていた。
 「どうしたの、セーナ?」
ユーリが写真をのぞき込みながら聞くと、セーナは視線を離さずにユーリに言った。
 「ねぇ、このティナー王妃って・・・誰かに似てない?」
 「えっ?」
ユーリが不思議そうな顔をしてセーナを見るとセーナは写真から視線を離してユーリの方を向いた。
 「誰かに似ている気がするのよ・・・この顔・・・私、見たことがあるような気がするの。」
セーナの真剣な眼差しにユーリは少し戸惑った。セーナはティナー王妃の顔を見たのは今日が初めてでありヴァラベル国へ行ったこともないため、見覚えがあるはずがないのだ。
 「・・・ティナー王妃を知っている気がするの?」
ユーリは恐る恐るセーナに聞いた。するとセーナは首を横に振った。
 「ううん。ティナー王妃のことは全然知らないし、今日初めて見た。でも、誰かに似ているの・・・。誰に似ているのか思い出せないのよ・・・。」
 「・・・私も知っている人・・・?」
ユーリが心配そうに聞くと、セーナは首を傾げて言った。
 「ごめん・・・それさえも思い出せない・・・。う〜・・・頭の中に靄がかかってるのよ!!!」
セーナは両手で頭を抱えて天を仰いだ。その様子を見ながらユーリはティナー王妃の写真が映っているファイルを取って言った。
 「セーナ・・・気持ちはわかるけど・・・今はそんなコトで騒いでいる場合じゃないと思うんだけど・・・。」
ユーリの冷静な視線にセーナは我にかえったかのように勢いよくユーリを見た。
 「そうよ!!こんなコト言ってる場合じゃないって!!どうしよう・・・ユーリ、どうしたらいい?ヴァラベルのバカ王太子と婚約なんて絶対に嫌!!!」
 「・・・。」
 「ユ、ユーリ!?聞いてるの!?ちょっと!!!ユーリ!!!」
セーナは下を向いて考え事をしているユーリの肩を勢いよく揺らした。
 「ちょ、ちょっと・・・やめてっ・・セーナ!!聞いてるってば!!!」
セーナに激しく揺すられながらユーリはセーナの腕を持って言った。
 「もうっ!!落ち着いてよ、セーナ。」
ユーリはセーナの手を振りほどいて、髪を整えながら言った。
 「だって・・・」
セーナは心配そうな顔をしてユーリに言った。
するとユーリはファイルを全て本棚に直し、レバーを引き、仕掛け本棚を戻した。
そして落ちていた本を拾いながら話し始めた。
 「セーナ・・・確かに婚約という可能性はあると思うの。でも、確定ではないのよ・・・ただ、そういう可能性があるっていうだけ・・・」
ユーリのいつもよりトーンの低い声にセーナは少し安心した。ユーリがトーンの低い声を出すときは何かしら考えがあるときだからだ。
 「だから・・・まずは確認という作業を行う必要があるのよ。本当にヴァラベル国王はセーナを王太子妃にするつもりなのかということをね・・・。確認が取れないことには断ることもできないでしょ?」
ユーリは拾った本を綺麗に本棚に並べてセーナの方を振り返った。
 「それはそうだけど・・・確認なんて取れるの?」
セーナも本を拾い上げて本棚に並べた。
 「・・・それなら大丈夫。」
 「???」
本を全部本棚に並べてユーリは言った。
 「一緒に来て!!」
ユーリはそう言って部屋を出た。セーナも慌ててユーリと一緒に部屋を出た。

禁じられし扉 第12話

 「なるほど〜。そんな事を言われたんだ・・・。」
ユーリはソファーに寝転んで言った。
セーナは部屋に帰ってユーリに全てを話した。
 「全く、人のことをバカにして!!それに、これは我がシャトゥーム国を侮辱している事も同じ!!ヴァラベル国の力を借りる必要なんかない!!」
セーナはクッションを思いっきり床に叩きつけた。そしてユーリを見て言った。
 「ユーリは腹が立たないの!?」
 「・・・。」
 「ユーリ!?聞いてるの!?」
セーナはソファーを覗き込んで言った。
 「・・・留学は口実なんじゃない?」
 「はっ?」
ユーリは起き上がり、セーナの顔を見て言った。
 「ヴァラベル国って、確か王太子が一人だけなのよ。」
 「それが何か?王太子であろうが王女であろうが別に私には関係が無いでしょ?」
セーナは顔をしかめて言った。
 「ちょっと待って・・・。」
ユーリはそう言うと本棚から分厚いファイルを取り出して、テーブルに置いてめくり始めた。
 「それは何?」
セーナが覘きこむと、ユーリは忙しそうにファイルをめくりながら言った。
 「あ〜・・・外交ファイルよ!!諸外国の情報をあつめてファイルしてあるのよ・・・もちろん王室関連の情報もね!!・・・あった!!」
ユーリはヴァラベル王室の情報を読み始めた。
 「先月、ヴァラベル第36代国王『ロッソ・ミディオル・フォン・ヴァラベル』はティナー・マグレット王妃との間に待望の第一子、レイン・ロゼルタ・フォン・ヴァラベル王太子を儲けた。ティナー・マグレット王妃は非常に体が弱く、国民は世継ぎを諦めていたが・・・・・」
 「レイン・ロゼルタ?どこかで聞いた様な・・・」
セーナがつぶやくとユーリはページをめくって言った。
 「聞いているはずよ・・・だって・・・えっと・・・」
そういってユーリは違うページを読み始めた。
 「『レイン・ロゼルタ王太子はヴァラベル国内に新たなテクノロジー開発機関を設立し、王太子自身も所属し開発に携わっている。』・・・えっと、あ、コレコレ!!『レイン・ロゼルタ王太子はシャトゥーム王国のセーナ・クリステル王女の開発した瞬即冷凍技術に非常に関心を持っており、また、開発したセーナ・クリステル王女のことを唯一、私の事が理解できる女性だと言っている。レイン・ロゼルタ王太子は母親のティナー・マグレット王妃と常に一緒に行動しておりマザーコンプレックスではないかと言われているのだが、その彼が初めて興味をもった女性はなんと、シャトゥーム国王女とは・・・』って書いてある。」
ユーリがファイルから顔を上げると、セーナは俯きそして肩は震えていた。
 「セ、セーナ?」
ユーリが声をかけるとセーナは両手に拳を作り、それを震わしながら声を絞り出した。
 「・・・あ・・・の・・・気持ちの・・・悪い・・・マザコン男〜・・・」
ユーリがファイルをテーブルから持ち上げた次の瞬間、テーブルは真っ二つに割れた。
 「あら〜・・・350年もののアンティーク家具なのに〜。」
ユーリは真っ二つに割れたテーブルを見ながら言った。
レイン・ロゼルタ王太子のその発言によってヴァラベル王国のマスコミはセーナの情報を少しでも手に入れるために、ありとあらゆる手を使ってきたのだ。そのため、盗聴や盗撮なども行われ、ヴァラベル王国のマスコミは全てシャトゥーム国への立ち入りを禁止にし、城内警備も厳しくなり王室の者は一切の自由が利かなくなった。そのため、ユーリやセーナも自由に行動することができなくなりとても不自由な生活を強いられることになった。
さらに、レイン王太子から様々な贈り物や手紙が届き、それによってさらにマスコミの情報入手合戦がひどくなったのだ。当のレイン王太子はセーナと交友関係を築こうとしていただけだったのだが、マザコンで有名な王太子が女性に、さらに一国の王女に贈り物や手紙を出すという行為はセーナが『ヴァラベル国王太子妃候補』としてマスコミを賑わしていたのだ。
 「あの、マザコン男のせいで私がどれだけ不便な生活を強いられたか・・・ユーリだってそうでしょ!?」
セーナは激しい口調で言った。
 「あいつのせいで私は24時間ずっとSPの監視下におかれたんだから!!」
 「・・・レイン王太子は今年で18歳なのよ・・・。」
ユーリはファイルを見ながら静かに言った。
 「それがどうしたって言うのよ!?」
 「ヴァラベル国の王室の伝統を知ってる?」
セーナが真っ二つに割れたテーブルを部屋の隅に運びながら聞くと、ユーリはファイルから顔を上げて言った。
 「・・・私が知っているわけないでしょ!?ヴァラベル国のことは前にユーリから聞いた事しか知らないし・・・」
セーナが少し脹れながらユーリに言うと、ユーリは少し苦笑した顔で言った。
 「ヴァラベル国の王室では継承者は20歳までに結婚し、30歳までに第一子を儲けなければならないのよ。これは国の繁栄を願うために、国の象徴である王室が国民に対して誠意を示す方法なんですって・・・。でも、レイン王太子はあの・・・その・・・まぁ、マザコンなわけで・・・。今まで彼が興味を持った女性は・・・セーナただ一人なのよ。だから、留学は口実で本当のところは王太子とくっつける事だと思うのよ。」
 「ちょ、ちょっと待ってよ!!なんでそうなるのよ!!私は・・・」
 セーナが混乱しながら言うと、ユーリはソファーに座り落ち着いた声で言った。
 「シャトゥーム国王位第一継承者。でも、私も王位第一継承者よ。」
 「・・・ユ、ユーリ・・・?」
セーナが驚いてユーリの顔を見た。
 「・・・ヴァラベル国はそう考えているんでしょうね。セーナは確かにシャトゥーム国王位継承者だけど、私がいるって・・・。ユーリ・パレルがシャトゥーム国の王位継承者になり、セーナ・クリステルをヴァレベル国王太子妃に・・・と。」
 「ユーリ・・・?」
ユーリが涼しい顔をしてそのような事を言ったのが信じられないという顔でセーナはユーリを見た。すると、ユーリの顔が険しくなった。
 「・・・まったく、勝手もいいところね。セーナは我がシャトゥーム国王位第一継承者よ。しかも、よりにもよってなんでヴァラベルのヘタレ王太子の妃にならなくちゃいけないのよ!!」
 「ユーリ・・・」
セーナは少し安心して笑顔で言った。
 「何、笑ってるの!?それに、今のヴァラベル王室がどう言う状態か知ってるの!?」
ユーリはイライラしながらセーナに言った。
 「え・・・だから、知らないって・・・。」
 「ロッソ国王とティナー王妃は王太子を溺愛するあまり、国家予算を息子のやりたい事につぎ込みすぎて、破産寸前なのよ!!」
セーナがぽかんとした顔でユーリを見ているとユーリはセーナに顔を近づけて言った。
 「はっ?でも、あの国は経済も安定してるって・・・それにテクノロジー技術も・・・」
 「表向きはね・・・おそらく国民も王室がどんな状態なのか知らないと思うわ!!だから、レイン王太子の婚約をなんとしてでも成立させようと必死なのよ。国民に王室の財政難がバレないうちに・・・。」
セーナが理解できないという様子でユーリに言うと、ユーリはファイルをソファーに放り投げて立ち上がった。
 「・・・つまり、セーナとの婚約を成立させてしまえば、それを口実に我が国からお金を借りられるということ!!一国の王太子と王女との婚約は両国の友好条約を無条件で結ぶということに等しいのよ!!さらに嫁がせた後はこっちとしては娘の安全を考え、提示された要求に対しては無理な事でないかぎり呑むでしょうしね・・・。」
 「ええぇぇぇ〜!!!そんなの人質と同じじゃない!!!」
セーナが叫ぶとユーリは厳しい顔をしたままセーナに言った。
 「はっきり言っておくけど、ヴァラベル国に嫁ぐってことはそれと同じよ!!レイン王太子はマザコンで女性には興味を持てない人だし、母親のティナー王妃は異常に息子を溺愛しているし・・・それに、ロッソ国王は女好きみたいだしね。嫁げば確実に拷問の日々ね。」
 「・・・絶対に嫌ぁ〜!!!」
セーナは両手で頭を抱えながら叫んだ。すると、ユーリはにっこり笑顔で言った。
 「じゃあ、丁重にお断りしないとねぇ♪」
 「・・・どうやって?」
セーナは不安そうな顔でユーリを見た。

禁じられし扉 第11話

 「おぉ、セーナ。やっと来たか。」
セーナが部屋に入ると国王はセーナに歩み寄り、そして椅子に座っている老人を紹介した。
 「セーナ、こちらはヴァラベル王国 首相付き事務官 ノスチーヌ候だ。」
すると、老人は椅子から立ち上がってセーナに歩み寄り、膝をついてセーナの手を取りキスをした。
 「初めまして。ヴァラベル王国 首相付き事務官のアリオス・エディール・フォン・ノスチーヌでございます。セーナ・クリステル王女にお会いできて光栄でございます。本日は国王陛下とセーナ様にヴァラベル国王より伝言を預かってまいりました。」
 「初めまして、ノスチーヌ候。ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。セーナ・クリステルです。私に・・・ですか?」
セーナは困惑した顔で国王を見た。すると国王は椅子に座って笑顔で言った。
 「とりあえず、座りなさい。ノスチーヌ候もお掛けになって下さい。」
 「ありがとうございます。」
ノスチーヌ候が椅子に座るとセーナはノスチーヌ候に尋ねた。
 「あの〜・・・一体どういうご用件なのでしょうか?」
すると、ノスチーヌ候は笑顔でセーナに言った。
 「わが国、ヴァラベルのことはご存知ですか?」
 「え・・・はい。詳しいことまでは存じませんが、テクノロジー開発は世界のトップクラスであり、治安もよく経済も安定しているとか・・・。」
セーナは以前ユーリから聞いた情報を必死に思い出しながら答えた。
 「わが国のテクノロジーもヴァラベル国の影響を大きく受けているということも知っています。」
 「その通りでございます。今日はそのテクノロジーに関することでセーナ様と国王陛下にヴァラベル国王よりお伝えしたいことがあるのです。」
ノスチーヌ候はそう言うと厳重に鍵をかけられている木箱を取り出し、開錠して中に入っていた封書を国王に渡した。国王はそれを受け取り手紙を取り出して読み始めた。セーナはその様子を困惑した顔をして見ていた。
国王は手紙を読み終えるとそれをセーナに渡した。
 「私も読むのですか?」
不思議そうにセーナが国王に尋ねると、国王は笑って言った。
 「この手紙は私にではなく、おまえに宛てられているのだよ。」
 「えっ・・・?」
セーナが驚いているとノスチーヌ候が付け加えた。
 「国王陛下には先ほど、私からきちんとお話いたしました。それに、ヴァラベル国王からシャトゥーム国王陛下に宛ててのお手紙もお渡しいたしましたので・・・。それはセーナ様に宛ててのものでございます。」
それを聞いて、セーナは困惑しながらも手紙に目を通した。
 「・・・えっ!?」
手紙の内容に驚きセーナは顔を上げて言った。
 「一体、どういう事なのですか!?」
セーナは手紙をテーブルに叩きつけた。
 「私にこの国を離れろとおっしゃりたいのですか?」
 「セーナ様、ヴァラベル国王はただテクノロジー開発に興味があり、その才能をお持ちのあなたにヴァラベル国のテクノロジーを学んでみないかとおっしゃっているだけでございます。」
ノスチーヌ候はセーナを宥める様に言ったが、それが反対にセーナを余計に怒らせてしまった。
 「私はただ個人の趣味として発明を楽しんでいるだけです!!一国のテクノロジー開発に興味はございません!!それに、私はわが国のテクノロジーに誇りを持っております。他国の干渉を受けたくはありません!!」
セーナは激しい口調でノスチーヌ候に言った。
 「しかし、セーナ。この国ではできないこともヴァラベル国ではできるのだよ?それに、今以上の知識を得るには留学した方がいいと思う・・・ヴァラベル国では・・・」
国王がセーナを落ち着かせようとしたがセーナはその言葉を遮り、ノスチーヌ候の方を向いて言った。
 「・・・失礼いたしました。しかし、私にはまだこの国でやらなければならない事があります。ですから、留学はまたの機会ということで・・・。では、私はこれで失礼いたします。」
 「セーナ、待ちなさい・・・。」
国王が止めるのも聞かずにセーナは部屋を出た。そして、部屋に戻った。

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