禁じられし扉 第8話

 「ユーリ、体調はどう?」
王妃はユーリの着替えのドレスを持って部屋に入ってきた。
 「お母様・・・だいぶよくなったと思います。」
ユーリは起き上がり、本を読んでいた。
ユーリはまだ完全には回復していなかったものの、以前に比べればだいぶ顔色もよくなり元気になった。するとセーナが王妃の後ろから入ってきて言った。
 「ユーリ!!まだ完全には回復していないんだから安静にしてなきゃダメ!!」
 「でもぉ〜・・・つまんないよぉ!!」
ユーリがふくれてセーナに言うとセーナはお菓子を差し出して厳しく言った。
 「ダメ!!」
そんな様子を王妃は優しく見守っていた。しかし、一つだけ気がかりな事があった。
ジョーが城を出てもう3カ月近くにもなるのにユーリはまだ完全に回復しない。それに、ユーリはしばしば城内に居ても体調を崩すことがあるのだ。医師団に見せても原因は不明。王妃は心配をしながらもそれを二人の娘たちに悟られぬように心がけていた。
すると、ユーリはそんな王妃の心配を見抜いたかのように王妃とセーナに言った。
 「私はまだ彼を近くに感じるの。私の体調が崩れるのは彼の気配を感じ取ってしまうから・・・。彼が近くにいる以上、私は完全には回復できない。」
それを聞いた王妃は驚きながらも、落ち着いた様子でユーリに言った。
 「ユーリ・・・そんなことはありませんよ。お父様がしばらくの間、彼の城内への立ち入りを禁止にしてくださったのですよ。だから何も考えずに今はただ体のことだけを考えて・・・」
 「感じるんです・・・お母様。お父様を彼に近づけてはダメ!!止めてください!!」
ユーリは王妃のドレスの裾を掴んで言った。すると、セーナはそのユーリの手をつかんで言った。
 「ユーリ・・・少し落ち着いて。もう休んだほうがいい・・・感情が高ぶると体調が悪化するから。」
 「・・・そうですよ、ユーリ。大丈夫だから・・・セーナの言う通りに、今は休んでちょうだい。」
王妃はそう言ってユーリの額にキスをしてセーナに言った。
 「セーナ。私はお父様の所へ行ってきます。ユーリの傍に居てあげて。」
セーナは笑顔で頷いた。
王妃はユーリの私室を出て国王の私室に向かった。王妃が扉をノックすると中から声が聞こえてきた。
 「入りなさい。」
王妃が部屋に入ると国王とジョーがいた。
 「あなた・・・少しお話があります。」
王妃が真剣な顔で国王にそう言うと国王は笑顔で言った。
 「一体、どうしたと言うのだ?そんな怖い顔をして・・・今、ジョーに宗教の歴史について色々と教わっているところなのだ。後にしてくれないか?」
それを聞いた王妃はジョーと国王を睨み激しい口調で言った。
 「何をのん気なことを・・・大変重要なことです!!今すぐ聞いていただかなければなりません。ジョー、あなたは退室してください!!」
王妃の異常なまでの焦りに国王は驚きジョーに言った。
 「ジョーよ・・・どうやら授業は中断のようだ。今日はここまでにしよう・・・。」
するとジョーは国王と王妃に頭を下げすぐに退室した。
 「王妃よ、どうしたのだ?いつも冷静なおまえがそんなに声を荒立てるなんて・・・」
 「ユーリは気がついています・・・おそらくセーナも・・・」
王妃は国王の言葉を遮り言った。そして、深いため息をつき続けた。
 「あなた・・・ユーリはジョーがこの城内に居る限り回復することはありません。苦しむあの子を見るのは私もセーナもとても辛いですわ・・・」
 「エレーナ・・・それは偶然ではないのか?ジョーの気配でユーリの体調が崩れるなどというのはおかしいではないか・・・。医師団も病気ではないと言っているのだし。」
国王は王妃の肩に手を乗せて言った。
ユーリが倒れてから1カ月の間、国王はジョーの城内への立ち入りを禁止にした。しかし、ユーリがだいぶ回復してくると国王は自分がジョーに教わるために週に1度だけジョーに国王の私室に来るよう命じた。しかし、その事はユーリとセーナには言っておらず国王と王妃と数人の傍仕えしかしらないことだった。王妃は国王の判断に賛成してはいなかったが国王の命令だったため、従わざるを得なかったのだ。
 「ユーリが・・・ユーリがはっきりと言いました・・・。」
王妃は俯き、のどの奥から声を絞りだした。王妃の頬を涙が伝い、床に零れ落ちた。
 「エ、エレーナ!?」
国王は驚き、そして王妃を抱き寄せた。王妃は国王の腕の中で涙を流しながら今にも消えてしまいそうな声で言った。
 「・・・心配なのです・・・ユーリやセーナが消えてしまいそうで・・・アナタが私を置いてどこかへ行ってしまいそうで・・・。」
国王は優しく、そして強く王妃を抱きしめ、王妃を宥めるように言った。
 「エレーナ。私はこの世界中で誰よりも君を愛しているよ。そして、ユーリとセーナをなによりも愛おしく大切に思っている。」
国王は王妃にキスをして涙を拭きながら哀しそうな顔をして言った。
 「私は君の悲しむ姿を見るのが一番辛い。だから、笑っておくれ・・・。君がずっと笑っていられるように・・・私は何をすればいい?」
その言葉を聞いて王妃は胸が少し痛くなった。
自分の事をこんなにも大切に思っていてくれており、ユーリやセーナを大切に思っていてくれている王に自分の感情を押し付けてもいいのか・・・ただのジョーに対する嫉妬ではないのか・・・
王妃は黙って俯くことしか出来なかった。
何も変わっていない・・・自分や娘たちのことを一番に考えてくれる夫に、今よりもさらに国をよくしようと努力している王に何を不満に思うことがあるのだろう・・・。
 「エレーナ・・・君が笑顔を取り戻してくれるのならジョーをしばらく城には呼ばないようにするよ。それだけでエレーナ、ユーリ、セーナ・・・私の最も大切な家族が幸せでいられるのなら。」
国王は俯いていた王妃の顔に両手を添えて持ち上げて、王妃の目を見ながら言った。
 「それでいいかい?」
国王が笑顔で王妃にそう言うと、王妃は国王に勢いよく抱きつき胸に顔を埋めて言った。
 「ありがとうございます・・・。私も誰よりも国王陛下を愛しております・・・。」
国王は王妃を強く抱き寄せた。
しかし、その国王の顔はとても寂しそうだった。

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